ウォールアートと景観条例

建物外壁へのウォールアート制作時には、自治体で定める景観条例を確認する。

屋外でのウォールアート制作を検討する前に、はじめに調べなくてはならないのが景観条例です。日本の法律には、景観法、屋外広告物法、都市緑地法の景観緑三法があり、それぞれの景観行政団体がこの景観緑三法に基づいて景観に関する計画や条例を定めています。
この景観条例は、自治体ごとに異なり、それぞれ個別の定めがあります。東京であれば、東京都として「東京都景観計画」があり、23区それぞれの自治体が東京都景観計画の考え方を継承した景観条例を制定しています。
簡単に説明すると、外壁塗装の色はもちろん、看板やウォールアートに至るまで、定められた一定の色彩(色の指定または色の明度や彩度の規制)しか使用してはいけない色彩への規定や、屋外広告物としては壁面に対して30%以内に納めなくてはいけないなどの規定が設けられていたりします。観光地に出かけた際、コンビニやガソリンスタンドの看板の色が異なる風景を一度はご覧になったことがあるかと思いますが、あれがまさに、屋外露出物の色彩を景観条例の規定に準じたものとなります。

例えば・・・渋谷区の景観形成ガイドライン
例えば渋谷区では「景観形成ガイドライン」が定められています。この渋谷区景観形成ガイドラインでは、渋谷区全域を景観計画区域として「景観形成特定地区」と「一般地域」の大きく2つに区分しており、この区域区分に沿って届出等の手続きや景観形成基準を示しています。

景観形成特定地区の区域
地区地名 | A.表参道沿道地区 | B.代官山・旧山手通沿道地区 | C.新宿御苑周辺地区 | D.渋谷区中心地区 |
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区域 | 表参道地区 地区計画区域(渋谷区神宮前一丁目、四丁目、五丁目及び六丁目各地内) | 旧山手通り地区 地区計画区域(渋谷区猿楽町、鉢山町、恵比寿西一丁目、南平台町各地内) | 新宿御苑の外周から概ね100mから300mの範囲内 | 東京都景観計画に基づく「渋谷駅中心地区大規模建築物等に係る特定区域景観形成指針」の適用区域内 |
一般地域の区域
地区地名 | E.住宅地系市街地 | F.複合系市街地 | G.商業・業務地系市街地 |
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対応する用途地域 | 第1種低層住居専用地域、第2種低層住居専用地域、第1種中高層住居専用地域、第2種中高層住居専用地域 | 第1種住居地域、第2種住居地域、準住居地域、準工業地域 | 近隣商業地域、商業地域 |
渋谷区では、上記する区域区分ごとに詳細にわたる景観形成基準が定められています。景観形成基準には、「建物屋上への広告塔等の工作物等に関する規制」、「表参道に面する建築物の1階部分は、ショーウインドウなどを設置し賑わいの景観演出を配慮」、「窓面の内側から広告物等を庭園に向けて表示しない」などのほか、屋根や外壁にも基本色の色彩基準例が定められており、街並みとの調和を図らなければなりません。
この色彩については、外壁への制作となるウォールアートも適用となり、使用可能となる基準色およびその明度・彩度が定められているため、ウォールアート制作時には渋谷区担当窓口へのラフデザイン及びマンセル値の提出が必要となり、承認を受けてはじめて制作を進めることが可能となります。その他、ウォールアート制作では、区域区分により壁面に対する施工面積割合が定められているため、好きな色合いや大きさでウォールアートを自由に描ける訳ではありません。かなり詳細にわたる規定が定められていますので、制作前に各自治体の担当窓口にご相談されることをお勧めしています。
詳細は渋谷区Webサイトにてご確認ください。
渋谷区景観計画
例えば・・・台東区の景観計画
台東区には「台東区景観計画」に基づく「台東区景観まちづくり条例」が定められており、景観法で定める景観地区と、景観条例で定める地域で守りたい建物・樹木・風景などの景観まちづくり資源、さらに、その他の関連条例や制度に基づき規制する景観などがあり、その仕組みは大変複雑です。
台東区では区内を北西部地域、北部地域、中部地域、南部地域の4区域に区分けし、さらにそのなかに「下町景観形成地域」「景観育成地域」「景観形成特別地区」「景観基本軸」を定めています。

景観形成の方針と基準(行動制限)の重点的な地域
1.景観基本軸
隅田川・神田川については東京都景観計画を継承。その他、浅草通り・中央通り・雷門通り・かっぱ橋本通りを景観基本軸に制定。
2.景観形成特別地区
旧岩崎邸庭園については東京都景観計画を継承。上野恩賜公園周辺・隅田公園・浅草寺周辺地区・浅草六区地区を景観形成特別地区に制定。
3.景観育成地区
地元住民が主体となって個性を高め積極的に景観形成を図る地域で、その地域の景観の構造やイメージを明確にします。
4.下町景観形成地域
地形や市街地の形成経緯、土地、建物の利用状況、都市計画(用途地域・容積率の指定等)に応じて区内を4つの地域に区分して景観誘導を図ります。
(1)北西部地域:根岸・入谷地域などの歴史ある文化資源や低層のまち並みに配慮した景観整備を進めます。
(2)北部地域:言問通り北側の地域の景観資源や低中層のまち並みに配慮した景観整備を進めます。
(3)中部地域:浅草・松が谷地域の歴史ある文化資源や伝統行事、道具街などの特徴ある商店街に配慮した景観整備を進めます。
(4)南部地域:浅草通りの南側の地域の伝統行事や景観資源、アメ横などの個性的な商店街や浅草橋の問屋・専門店など中高層の街並みに配慮した景観整備を進めます。
台東区ではこのように、細かな地域・地区に景観条例が細分して定められており、その地域・地区によりそれぞれに規制が異なることから、上記1〜4の該当区域へのウォールアート制作を行う場合には、自治体の担当窓口に事前の確認が必要となります。
詳細は台東区Webサイトにてご確認ください。
台東区景観条例・景観計画ガイドライン一覧
まとめ
前述する通り、これら景観条例は、景観法や都道府県の景観計画に基づき、自治体ごとに定められており、東京都で見てもエリアごとに細かく規定が異なるので注意が必要です。主には国際的な施設や観光資源を有するエリアには景観法や景観条例が厳しく定められているケースが多く、東京エリアで見ると「両国」「浅草」など国有財産となる観光資源を有するエリアや、「表参道エリア」「国立競技場エリア」など国際的な交流の中心地となるエリアに設けられていることが多いため、ウォールアート制作時には実施前に必ず建物があるエリアに景観条例が定められていないかを確認し、規定される景観条例を正しく把握した上で実施することが大切です。